おみそコラムcolumn
ニッポンの文化を見直そう9 ~疫病の流行を防ぐために祭がある~
エッ!?白味噌のあぶり餅も、実は疫病対策(!?)
 今年はとんでもない春になってしまった。例年のように桜の開花は、どこ吹く風で巷は新型コロナウイルス(COVID-19)騒動一辺倒。ついには緊急事態宣言まで発せられてしまった。こうなってしまうと、ひたすら自宅待機し、嵐が過ぎるのを待つしかないようだ。世間ではイベントと名の付くものは全て中止で、祇園祭の開催さえ危ぶまれている始末なのだ。

 疫病の流行は、今に始まったことではない。永い歴史の中でその都度疫病対策が講じられて来た。何を隠そう、祇園祭もそこに縁りがある。祇園祭は、京都の八坂神社の祭礼だが、明治期までは祇園御霊会(ぎおんごりょうえ)と呼ばれていた。御霊会とは、思いがけず死んでしまった人(御霊)による祟りを防ぐための鎮魂の儀礼のこと。その昔、疫病や天変地異は、みんな御霊の仕業と考えられており、それを鎮める意味から御霊会が行われた。その始まりは、貞観5年(863年)5月20日に神泉苑で行われた御霊会とされている。平安京は、内地の湿地帯に造られたために疫病の温床だったといえなくもない。そこに人が集まり、上下水道が整ってなかったので疫病を何度も流行させたようだ。
 地下鉄鞍馬口駅近くに御霊神社(上御霊神社)があるが、ここは平安遷都に京の守り神として崇道天皇(早良親王)の御神霊を祀った所。疫病の流行などが相次ぎ、それが不運にも亡くなった人の祟りであるとしてその御霊を祀ることによって災いをなくそうと考えたのが御霊信仰である。そしてその祭りを御霊会とした。祇園祭はもとより京都の夏祭りがこれに端を発している。つまり御霊神社の祭礼こそがその発祥でもあるのだ。だから祇園祭が中止なんてことになってしまうと、その起こりを否定したことになってしまう(当然ながらウイルス蔓延防止をしなければならないので祭りなんて言ってられないが…)。当方としては、今の新型コロナウイルスの流行がおさまって夏に正常な状態で夏祭りが開かれることをただただ願うとしか言いようがない
 御霊神社というと、応仁の乱の戦闘の一つである上御霊神社の戦い(御霊合戦)が起きた地としても知られている。同戦いは、文正2年(1467年)1月18日から19日にかけて上御霊神社で畠山義就と畠山政長が衝突。これによって応仁の乱が幕開けている。応仁の乱は約11年間に亘って続き、これによって京都全域が壊滅的な打撃を受け、しいては戦国時代を呼び起こす因を作ってしまう。今でも京都の今宮神社や清凉寺には、あぶり餅なる和菓子が売られているが、この餅こそ応仁の乱や飢饉の時に活躍した食べ物である。あぶり餅は、きな粉をまぶした親指ぐらいの餅を竹串に刺して炭火で炙ったもの。仕上げに白味噌のタレを塗って提供する。食べることで病気や厄除けにご利益があるとされている。香ばしい餅と、きな粉の優しい味_、そこに白味噌のタレがうまく絡んで何ともクセになりそうな逸品なのだ。今宮神社の参道には、「一和」「かざりや」といった古くからやっている店がある。そのうち「一和」は、最古の和菓子屋なんて伝えられているようだ。「一和」は、「一文字屋和助」の通称で、平安時代から続いている。店の中には平安期からの井戸も残っており、この店であぶり餅を食べていると、何となく歴史を感じていいのだ。
 ところで先日、こんなデータを見つけた。免疫を高めるために一般大衆が取り入れていると答えた食材が1位ヨーグルト(75.6%)2位納豆(74.9%)3位味噌(57.2%)4位生姜(47%)5位にんにく(43.5%)なのだそう。その他が10.4%あり、そこにキムチやチーズが含まれている。上位三つの共通が発酵食品。味噌に免疫効果があるかどうかの話は横に置いたとして、味噌は昔から医者いらずといわれ、健康促進にいいのは間違いないこと。味噌を使いながら、この不安な世を元気に過ごしたいものである。(2020/4/23)
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)


<著者プロフィール>
曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと出版畑ばかりを歩み、1999年に独立して(有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。食に関する執筆が多く、関西の食文化をリードする存在でもある。編集の他、飲食店プロデュースやフードプランニングも行っており、今や流行している酒粕ブームは、氏が企画した酒粕プロジェクトの影響によるところが大きい。2003年にはJR三ノ宮駅やJR大阪駅構内の駅開発事業にも参画し、関西の駅ナカブームの火付け役的存在にもなっている。現在、大阪樟蔭女子大学でも「フードメディア研究」なる授業を持っている。