おみそコラムcolumn
ニッポンの文化を見直そう11 ~香り松茸、味しめじというけれど…~
松茸をありがたがるのは日本人だけ!?
 食欲の秋に、収穫の秋-。とかく秋は食にまつわる表現が多い。昔から四季のある日本では、春から苗を植え始め、秋に刈る-、そんな習慣が根づいていたからだろう、秋というと食に結びつけるケースが多々ある。秋に旨いものは一杯あるが、キノコもその代表。特に松茸がこの時季に出るために余計にそう思うのかもしれない。
 「キノコが最も発生するのは夏なのですが、松茸のように秋に旨いキノコが多いために、どうしても秋が旬と決めつけられているのですよ」。そう話すのは、神戸酒心館蔵内にある日本料理店「さかばやし」の幸徳伸也店長。幸徳さんは、キノコに造詣が深く、兵庫きのこの会の会長を務めるほど。同会には10年以上前に入会し、兵庫きのこ研究会著としても「兵庫のキノコ」なる本を神戸新聞出版センターより上梓している。幸徳さんによると、キノコは日本に約1万種存在。そのうち名前がつけられているのが約6千種で、毒キノコは1千種もあるそうだ。「食せるものでおいしいといわれるものは、約百種。その決め手は、香り・味・食感です」と教えてくれた。
 ”香り松茸、味しめじ“なんてフレーズを耳にするが、松茸をありがたがるのは、独特の香りによるもの。むしろ味ならしめじの方が上ということなのだろう。日本人がこれだけありがたがって秋の風物詩的に食したがる松茸だが、どうやらそれを好むのは日本人だけのよう。幸徳さんは「海外では価値が低く、軍足のような匂いと言って嫌うのだ」と言う。松茸はその名からもわかるようにアカマツの林に生える。香り成分はマツタケオールと呼ばれ、独特のもの。この香りをなぜか日本人は好み、高価にも関わらず手に入れようとするのである。
 栽培ができず、天然ものしかない。おまけに年々その収穫が減っているとあって国産ものはかなり高い。丹波産なんて目の飛び出るような価格で売られている。近年はトルコ産やカナダ産まで出回っており、幸徳さんの話では、アメリカ大陸産は日本のとは遺伝子も違っており、香りも弱いためにむしろ松茸もどきの印象が否めないそう。最近では中国産なら優秀な方で、韓国産は今や高級品であるという。

 松茸に比べ、味の面では勝っているというしめじとは、本しめじを指す。この本しめじは、全て天然。コナラ林やアカマツ林の樹木に菌根をつくって共生するもので、巷にはあまり流通していない。ところが1999年にタカラバイオが赤玉土と大麦などの穀物粒を主成分とした菌糸瓶法で人工栽培に成功させた。街中で目にする本しめじがそれで、栽培ものが世に出ることによって、松茸に比べたら少しは身近な食材になった。
 キノコは、概して低カロリーで食すと免疫力がアップするといわれている。風が冷たくなり始め、風邪が流行するこれからの季節には、キノコをたっぷり食べて免疫力を高めたいものである。キノコには味噌を使った料理が色々あるが、寒い地域のそれといえば、やはり朴葉焼きを思い浮かべてしまう。朴葉焼きとは、飛騨高山の郷土料理で、味噌に葱などの薬味やキノコなどを絡ませて朴の葉に載せて焼く。朴葉味噌に肉や野菜などを加え、七輪の上で焼く朴葉焼きは、今や飛騨地方の名物の域を越え、全国の割烹などで見られるようになった。香りの強い松茸を流石に朴葉焼きにはしないだろうが、秋の夜中はキノコを朴葉味噌につけてその味と香りを楽しむとともに、一杯飲りたいものである。(2020.10.23)
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
<著者プロフィール>
曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと出版畑ばかりを歩み、1999年に独立して(有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。食に関する執筆が多く、関西の食文化をリードする存在でもある。編集の他、飲食店プロデュースやフードプランニングも行っており、今や流行している酒粕ブームは、氏が企画した酒粕プロジェクトの影響によるところが大きい。2003年にはJR三ノ宮駅やJR大阪駅構内の駅開発事業にも参画し、関西の駅ナカブームの火付け役的存在にもなっている。現在、大阪樟蔭女子大学でも「フードメディア研究」なる授業を持っている。